卸売業とは?卸売業(wholesaling)とは、自ら生産を行わず、主に生産者など他の経済主体から商品を仕入れ、生産工程を加えることなく、主に小売業者などに再販売する業態を指します。ここでの「再販売の相手」とは、法人・団体などの大口需要者であり、個人の最終消費者は対象外です。このような再販売を事業の中心とする企業を「卸売業者(wholesaler)」と呼びます。卸売業の機能卸売業は、流通における「ギャップ」を埋める役割を担っています。最新の流通論(1)では、以下の4つの主要な機能が整理されています。商的流通(所有権移転機能)生産者と消費者が社会的分業の結果として異なる主体となり、生産・消費されるモノの所有権がそれぞれ異なることから生じる懸隔(*)、つまり所有権の懸隔(人的隔離)を架橋する機能が商的流通である。商的流通は、所有権もしくは使用権(法的権利)の移転機能による需給適合(マッチング)機能を本質とするため、流通の実質的・本質的側面と委して位置づけられる。(最新流通論(1)より)全国に分散して存在する生産者と小売店が直接取引することは容易ではありません。そこで、その間を仲介し、商品の所有権または使用権の移転を橋渡しする役割を担うのが卸売業者であり、この機能が「商的流通」と呼ばれます。*懸隔(けんかく):かけ離れていること物的流通(輸送機能)生産が行われる場所と消費が行われる場所が相違しているために生じる懸隔を空間の懸隔とした。物的流通の輸送機能は、この空間の懸隔を架橋する機能である。輸送は、取引主体間に発生する時間と空間のギャップを克服することを課題としており、購買(仕入・調達/収集・集荷)、企業内移動、販売(分散、分荷)、回収という4つの局面で輸送が必要となる。(最新流通論(1)より)商的流通が商品に対する所有権の移転を指すのに対し、物的流通は商品そのものの物理的な移動を意味します。卸売業者は、生産地と小売店の所在地との間にある空間的なギャップを埋めるため、商品を輸送するという重要な役割も担っています。物流機能(保管機能)生産が行われるときと消費が行われるときに時間的な隔たりがあるために生じる懸隔を時間の懸隔とする。物的流通の保管機能は、時間の懸隔を架橋する機能である。(中略)例えば、商品流通においても生産者の大量生産に対し、小売業者の少量仕入であることからしても、卸売業の一定期間の保有が必要であり、この保管機能が商品管理において重要な役割を果たす。また、輸送と保管の両方の活動を円滑に結びつける荷役は、商品の流れを断続的に推進する重要な機能であり、流通過程で商品価値を高めるために行われ、商品に付加される加工機能も見逃してはならない。(最新流通論(1)より)ここで述べられている「時間のギャップ」とは、需要と供給の間に生じる時間的なずれを指します。たとえば、小売店(最終消費者)の需要が高まる時期と、生産が行われる時期にはタイムラグがあるため、その間の商品は卸売業者によって保管される必要があります。さらに、生産者が卸売業者に対して100個単位で販売する一方で、卸売業者が小売業者に10個単位で販売するといったケースも見られます。このように、商品を小分けしたり、簡単な加工を施して提供することも卸売業の保管機能に含まれる重要な役割です。情報機能生産が保有している情報と消費が保有している情報の内容、量などに相違があるために生じる懸隔を、情報の懸隔とする。情報流通は、売り手と買い手との間で取引契約が成立するまで、さらに生産物の受渡しと支払いがなされるまで、情報は両社の間に存在する不確実性や不安定要素を取り除き、リスクを回避するためになくてはならない働きをしてきた。生産者と小売業者やユーザーとの間の隔たりが大きくなるにつれ、互いに相手のことがわからなくなる。そこで、卸売業者は生産者(メーカー)に対しては小売業者やユーザーのニーズ、技術・競合他社の動向を伝え、小売業者やユーザーには生産者の新製品開発の動きや製品ラインの変更に関する諸情報を伝達してきた。この情報機能が、需要と供給を円滑に結びつけるのであり、情報が果たす役割はますます重要性を高めている。(最新流通論(1)より)卸売業者は、生産者と小売業者の双方と密接にコミュニケーションを取っています。その結果、顧客(小売業者)側のニーズや市場動向、生産者側の製品情報や開発状況など、双方の情報を把握し、それぞれに適切な形で提供するという重要な役割を担っています。こうした情報の橋渡しによって、需要と供給のマッチングが円滑に行われてきました。特に近年は、ニーズの多様化や市場の変化が加速しており、情報機能の重要性はますます高まっています。一般消費者の立場では、卸売業者がどのような機能を担っているかは見えにくいのですが、物流においては非常に重要な立ち位置にあります。このような卸売固有の機能があるゆえに、IT・DX化における固有の障壁もでてきます。卸売業者の機能とIT・DX課題商的流通の課題基本的な商品の所有権の受渡しは以下のように行われます。卸売業者の業務は、まず小売業者からの受注を起点として始まります。この受注方法にはさまざまな形式がありますが、特に大きな課題となっているのがFAXによる受注です。実際、ある卸売業者では2025年時点においても、受注の約80%がFAXで行われていました。このように、FAXが依然として一般的に使われている業界も多く存在します。しかし、FAXで送られてきた注文情報は、すべて手作業でシステムに入力する必要があり、大きな業務負担となっています。さらに、卸売業者は多くの小売業者やメーカーと情報のやり取りを仲介しているため、取り扱うFAXの枚数も膨大です。各企業が業務効率化を目指してIT化を進めようとしても、この「FAX受注」が最初の壁として立ちはだかっているのが現状です。物的流通(輸送機能)の課題小売業にとって、卸売業者は在庫リスクを減らし、必要なものを必要な時期に届けてくれるとてもありがたい存在です。卸売業者もその期待に応えられるよう、商品の輸送に対して真摯に取り組まれており、実際、卸売業の設備投資の多くは車両関連に集中しているという調査もあります(出典:日本政策金融公庫「卸売業の設備投資に関する調査」(2024年5月))。卸売業者は必要な商品を必要なタイミングで届けることが求められている一方、地方では配送を担う人材不足が深刻で、配送業務の人員がネックとなり売上を伸ばせないというケースも多くあります。物流機能(保管機能)における課題卸売業者は、小売業者に適切なタイミングで商品を供給するために、安定した需要が見込まれる「定番品」を中心に、一定量の在庫を社内に確保しています。しかし、取引先の生産者が多く、取り扱う商品も多岐にわたることから、在庫数を常に正確に把握・管理するのは容易ではありません。加えて、仕入れた商品はロット単位でそのまま販売する場合もあれば、小分けにして出荷する場合もあり、必ずしも全てが在庫として保管されるわけではありません。中には、荷受け当日にそのまま顧客へ配送されたり、他の事業所へ転送されたりする商品もあります。つまり、卸売業者が取り扱う商品には、①一定期間在庫として保管されるもの、②小分けされたうえで保管・販売されるもの、③短期間で社内を移動して出荷されるもの、のように複数の状態が同時に存在しています。このように、商品の状態や在庫期間が流動的であること、そして卸売業特有の柔軟な対応が求められることが、在庫管理の複雑さを引き起こす一因となっているのです。情報機能における課題卸売業では、取引先である小売業者の要望に応じて、取り扱う商品の種類が次第に増えていく傾向があります。商品数が増えるほど、それに伴って管理すべき情報量も膨大になり、これらを適切に整理・運用していくのは容易ではありません。なかでも課題としてよく挙げられるのが、「顧客情報の管理の難しさ」です。小売業者と卸売業の営業担当、さらには生産者と卸売業の仕入担当(または営業担当)との間では、日々さまざまな情報のやり取りが行われています。たとえば、小売業者のニーズや生産者からの新製品情報など、非常に価値の高い情報が頻繁に飛び交っています。しかし、こうした情報が担当者個人の中だけに留まってしまい、社内で共有・蓄積されにくいというのが現状です。情報共有がうまく機能していないと、担当者の退職や異動の際に引き継ぎが困難となり、一から情報を構築し直さなければならなくなることもあります。情報は企業にとって大きな資産です。そのため、日々の情報が社内にきちんと蓄積されるような体制づくりや、ITツールの導入を早めに検討・実施しておくことが重要です。まとめ卸売業は、生産者と小売業者の間をつなぐ橋渡し役として、商的流通・輸送・保管・情報という4つの基本機能を担うビジネスです。今回取り上げた課題はその一部にすぎませんが、業種によって物流機能が重視される場合もあれば、情報機能の整備が喫緊の課題となる場合もあります。いずれにせよ、基本となる機能構造は共通しており、課題の現れ方には共通点が多く見られます。こうした課題の多くは、ITシステムの導入によって改善が期待できます。しかし、自社に合ったシステムを構築・運用しようとすると、どうしてもカスタマイズ費用が発生し、導入コストが高くなりがちです。そのため、「販売管理システムに投資をしづらい理由」でも述べたように、特に中小の卸売業者では十分なIT投資が行われていない現状もあります。システムへの投資が不十分な場合、情報管理が煩雑化しやすくなり、属人化を招いて、結果的にDXの大きな障壁となってしまいます。業務内容や業界特性といったビジネス固有の背景があるため、IT化によってすぐに劇的な成果を上げることは難しいかもしれません。だからこそ、まずは小さな改善から始めることが重要です。弊社が提供する「アニマルオフィス」のような、現場に寄り添ったシンプルなサービスを通じて、DXへの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。引用(1)最新 流通論[第二版] 青木 均・岡野 純司・李 素煕 創成社