前回の記事では、卸売業において販売管理システムの導入がいかに大きな負担となっているかを解説しました。製造業とほぼ同じ機能のシステムを使うにもかかわらず、利益率の違いにより、卸売業の方がはるかに重い投資負担を強いられています。売上10億円規模の企業であっても、導入にあたって銀行借入が必要になるケースが珍しくなく、こうした構造が業界全体のデジタル化の壁となっています。では、どうすればこの状況を打開できるのでしょうか。ここで注目したいのが、SaaS(Software as a Service)を活用した販売管理の仕組みです。SaaSは、従来のオンプレミス型と比べて、初期投資を抑え、月額課金制で導入できる柔軟なITサービスです。特に卸売業のように「キャッシュを守りながら業務効率化を進めたい」業態にとって、SaaSは非常に相性の良い選択肢といえます。本記事では、なぜ卸売業こそSaaSを積極的に活用すべきなのか、その理由を6つの視点から解説していきます。1. 初期費用を抑えて、無理のないスタートができるSaaSは初期費用が安く、月額課金制で使い始められるサービスが増えています。もちろん中には高価格帯のSaaSもありますが、多くの場合、オンプレ型のようにサーバー購入や大規模な初期設定は不要です。特に卸売業は長年続く企業が多く、OSの更新タイミングごとに高額なアップグレード費用を支払ってきたという話もよく聞きます。今はそうした構造を変えられる時代になってきました。もし「どれを選べば良いのかわからない」という場合は、私たちも相談に乗りますので、お気軽にご連絡ください。2. 最近は“無料で改修してもらえる”こともあるこれは意外に思われるかもしれませんが、最近のSaaS開発では汎用的な要望であれば無償で取り入れてもらえることがあります。理由は、生成AIの登場により開発コストが劇的に下がってきているからです。少人数でも高速に開発できるようになり、開発者側もユーザーの声を聞きながら機能改善をしやすくなっています。また、SaaSは「カスタマイズできない」と思われがちですが、早期導入ユーザーの声は反映されやすい傾向があります。新しいサービスに触れるのは不安かもしれませんが、卸売業の方々は「対人のやり取り」に長けているはずです。要望をしっかり伝えられる皆さまだからこそ、いい関係を築けると思います。3. 常に最新の状態で使い続けられるオンプレ型のシステムは「買った瞬間が一番新しい」状態です。その後、数年かけて徐々に陳腐化していき、アップデートには追加費用が必要になります。例えるなら、新築の家を買って5年後に急に壊れるリスクを抱えているようなものです。家は30年以上もちますが、システムの世界では5年で“古い”扱いになるのが一般的です。SaaSなら常に自動で最新状態に保たれるため、更新費用や脆弱性の心配をせずに使い続けることができます。4. 「クラウドは遅い」は、もう神話です「クラウドは遅い」「オンプレの方が安定している」──こんな声を今でも耳にしますが、これはもはや過去の話です。たとえば10年前、動画を見るならDVDが安定していたかもしれません。でも今はどうでしょう? NetflixやYouTubeでストレスなく動画が見られますよね。同じことが業務システムにも起きているのです。特に販売管理などの業務では、やり取りの大半がテキスト情報です。通信速度の影響を受けることはほとんどありません。5. ウイルス感染の被害が最小限に抑えられるサイバー攻撃の手口は年々巧妙になっています。生成AIの影響もあり、メール文面からは不正メールかどうか判断がつきにくくなってきました。もし社員がウイルス付きのファイルを開いてしまったら──オンプレ型ではシステムごと被害を受ける可能性が高いです。一方、SaaSはクラウド上にデータがあるため、ID・パスワード変更やアクセス遮断によって被害を最小限に抑えることが可能です。下記のようなツールで、自社のリスク意識をチェックしてみるのもおすすめです:👉 https://phishingquiz.withgoogle.com/?hl=ja6. これからは「AIが組み込まれるか」が重要になる今後、SaaSにはどんどんAIが組み込まれていきます。請求書の自動作成、発注の予測、売上傾向の分析など、人間が判断に時間をかけていた部分をシステムが支援してくれるようになります。一方で、オンプレ型のシステムはアップデートが難しく、AI機能を後から追加するのは現実的ではありません。労働人口が減少する中、AIによる業務支援は避けて通れないテーマです。将来の働き方を考えるうえでも、SaaSによるAI対応の可能性を見据えることが大切です。カスタマイズ重視から“システムに合わせる”マインドへ確かにカスタマイズ性はSaaSの一般的なデメリットですが、これを逆手にとって「業務フローを最新の仕組みに寄せ、標準化・効率化を図る姿勢」が勝ち筋です。海外企業ではすでにこのアプローチが主流になっており、日本の卸売業にとっても業務標準化の好機と言えます。ぜひシステムとともに、おもてなしも残しながら、新しい働き方にシフトしていきましょう。